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こころの就労・生活相談室~元当事者PSWのブログ~

精神保健福祉士(PSW)を取得、統合失調症を抱えながら転職を繰り返し当事者として障害者雇用で働いた経験のある著者のつれづれ日記です。

第一章 闘病編 ~急性の精神病~ 5

「え!?もうここを出ないといけないの?居心地よかったのに残念だなぁ」

「大学には休学届けを出されてますね?今は12月ですから、春まで自宅で休まれるのはどうでしょうか?」

「雄志、どうする?」

父が聞いてきた。

「どうしたらいいのかわからんわぁ・・・。どうしよう。」
雄志は返事に戸惑った。まだ自分で判断できるような状態ではなかった。どうしたらよいか、わからないし、考える気力も落ちていた。結局、両親の意向で退院することが決まった。

「中林さんにお礼を言ってくる」

「雄志が『兄貴』と慕っていた人やな」
雄志は中林さんが来るのを待った。

「雄志君、退院おめでとう、元気でな、またどこかで会おう、僕は正看護師目指して頑張るよ」

「兄貴・・・(涙)」

兄貴は手を振りながら雄志が病院を後にするのを見送ってくれた。

2000年(平成12年)12月 雪のふるなか、荷物を抱え雄志は退院した。

 

「現実に引き戻された気分がする・・・。」

 東京から大阪へ向かう新幹線の車中でそう感じながら雄志は静かに本を読んでいた。小田原を通過したあと、富士山を見つめようとしたが、残念ながら曇って見えなかった。

「成長と葛藤を繰り返した学生時代もひと休みになるのか。」
雄志は第二の故郷を離れることを少し淋しく感じた。

 

第一章 闘病編 ~急性の精神病~ 4

交差点をわたっていると、信号の向こうから一台の乗用車がきた。

その車はハザードをたいている。

ハザードは、『私はあなたの味方だ、あなたの安全を見守っているよ』

といってくれているように思えた。

それとも何かの合図か・・・

本部からの出迎えか?やはり私は秘密のカギを握る特・別・な・存・在なんだ!

雄志は手を振りながらその車に近付いていった。

「危ないよ、こっちだよ」

 雄志は中林さんに止められた。薬の副作用なのか、ふわふわした気分のまま近くのグラウンドに入った。ソフトボールは、自信があった。胸一杯に空気を吸い込むと雄志は走り始めた。

「今まで部屋に閉じ込められていたからな。思う存分走るんだ」
雨で少しぬかるんだ地面をかまわず走って行く。

「広い!大きいな!おーい!」

「おぃ、雄志君、こっちがホームベースだぞ。」

「いいんですよ、僕は走りたいんです!」

しばらく走り回っていた。ソフトボールにも思い切り参加し我を忘れて遊んだ。久しぶりに動きまわったせいか、足と腕が少し筋肉痛を起こし始めた。

「さあ、みんな帰ろうか」

中林さんの合図で皆、病棟へ引き上げ始めた。途中のコンビニで雄志が菓子パンを食べたいと言うと、

「今回だけだよ、誰にも言っちゃダメだよ。」
と許してもらえた。病院では食事以外に菓子パンを食べることは厳禁なのだ。

あるとき、雄志が
「僕は悪の組織に本当に狙われているんです!殺されるかもしれません!」
と泣きそうになりながら訴えたとき、

「大丈夫だ!俺がいるじゃないか!安心しろ!」
そう言って温かく励ましてくれた。またあるとき、中林さんは

「今は准看護師だけれども正看護師を目指して勉強する」
と言っていた。雄志は頼もしい中林さんを兄貴と呼んだ。

兄貴は親身に話しを聞いてくれた。
朝が冷え込んでくる季節となった。

「雄志君、風船バレーをしない?」
看護師の明美さんから声をかけられた。明美さんは若く見えるが、20歳すぎの息子がいるらしい。驚いた。

 周りの人は高齢の方も多くいたので、雄志は車椅子に座ってのプレーだった。体育館の中で雄志はチームの代表となり、思う存分プレーした。みんなが盛り上げてくれた。楽しい思い出をつくった後、今度は映画鑑賞をしようと看護師さんに言われた。

精神疾患をもちながら普通に地域で生活している学者の姿が映っていた。初めて見る映画であるが、主人公の妄想する心理状態に共感できるものがあった。

 だんだん毎日が楽しくなってきた。ふわふわした気持ちで過ごしていたその数日後、突然、両親の姿が見えてきたのであった。

 突然現れた両親に、始めは秘密組織の誰かが両親に化けて出てきたのかと強く警戒していた。

「雄志、なんでしかめっ面なの?お母さんよ、わからないの?」
母は少し悲しそうな表情をした。

「雄志、元気か?」
父がけげんな顔をして聞いてきた。

「うん、楽しくしてるよ」

「雄志、やせた?」
母は心配そうに声をかけた。

「病院食だからね」
雄志はもっといろいろ話がしたかったが、薬の副作用か、ろれつがまわらなかった。

「こんにちは大和雄志さん」
とそこに白衣をまとった涌井さんが部屋に入ってきた。

「初めまして、ケースワーカーの涌井です。」
そういうと、涌井さんはノートを広げはじめた。

「雄志さんは入院されてから大分落ち着いてきました。そろそろ退院されてもよい状態ではないかと思います。」

第一章 闘病編 ~急性の精神病~ 3

「この部屋のどこかに盗聴器がある、まだ敵は俺を監視してるのか!どこまで俺を監視すれば気が済むんだ!」

と雄志は、怒りに任せて天井の蛍光灯を根元からはずしたらしい。雄志は記憶がとんでいてそのまま眠り込んでいたようだ。看護師があわててきたらしい。
天井が壁ごとめくれ、後で損害賠償を求められることとなったようだ。

「ひまだなぁ」
雄志は食事内容を書き留めようとノートを取り出した。

「読書録も書こう、日記も書かなくては」
 そういうと雄志は、持ってきたカバンからノートを取り出し、日記をかきはじめた。
そんな毎日を数日過ごしたある日、個室から出ることを許され、雄志は白い病棟内を歩いた。動きのゆっくりな新しいタイプの人たちがたくさんいるなと率直に思った。僕を守るためどこか新しい星の宇宙人が僕を見守りにきたのかな・・・はて・・・と、頭の中が妄想で再びフル回転していた。

「俺もこのゆっくりな人たちの中の一人なのか・・・」
状況を受け入れざるを得なくなると不安になって仕方がなかった。大学はどうなっているのだろう。内定していた会社はどうなるんだろう・・・。

 病院の食堂の中央に置いてあるテレビを見ながら、夕食を食べていた。野球が放映されているようだ。将棋をしている人もいた。ボーッと歩いている人もいた。雄志もその一人だった。食後の薬を飲み、部屋へ帰ろうと迷路のような廊下を通っていくと、

「お風呂ですよ」
 介護スタッフに声をかけられ、次々と皆がお風呂に入っていく姿がみられた。

「体は自分で洗ってね」
忙しそうにそう言われながら、雄志もお風呂に誘導された。お風呂は雄志には熱すぎて、水をいくらか足してぬるめにした。

「段々この生活にも慣れてきたかも」
2週間ほどたち、ふと雄志は思い始めた。

 人生焦らなくてもいいんだ。自分一人でなにもかもやろうと思わないでいいんだ。
誰かに助けを求めるのも時には大切なことだ。そう感じられるようになった。
3週間後、雄志は6人部屋へと移り、他の5人に断って、また朝と夕方にお経を読み始めた。なぜか欠かさず続けていた。

 昼食を食べると、男性の中林准看護師が部屋に入ってきた。
「雄志君、ソフトボールやろうか?」
 中林准看護師に声をかけられ、雄志は初めて外の空気を吸えるようになったのだ。
 病棟は最近新しくできたのだろうか、きれいな白色の建物は森林の中でひときわ際立っていた。

「僕はこの中にいたのか・・・」雄志は、しばしこの“特別な建物”見つめていた。
はじめての外出で、街の景色が随分新しくなっているような気がした。ここは別の国か?まるで別世界へ連れていかれたかのような気分に陥った。

「僕はどこにいるんですか?」

「緑町(みどりまち)(仮称)だよ」

「緑町?」

雄志は首を傾げた。
「緑町ってどこですか?」

「東京だよ」

なぜ東京にいるのかさっぱり検討がつかない。あれからどうなったんだろう・・・

私は護送されて、本・部・にいくはずじゃなかったのか・・・。
 

小説『心の病に挑みます。』 急性の精神病 2

やがて駆けつけてきた警察に取り押さえられた。

雄志はなぜか裸になっていたのだった。

 

 ふと気がつくと、そこは薄暗い留置場で、雄志は全身の力が抜けて布団で眠りこんでしまった。

しばらくして目が覚めたとき、大学の仲間が心配そうに様子をみに来てくれた。

「何も服をきてないけど、右手のお守りだけは離さず持っていたんだね。」

 それを聞くと雄志は安心して、再び寝込んでしまった。ここ2~3日、全く寝ていなかったようだ。

寝なくても頭がフルに回転し、自分は寝なくても能力をいくらでも発揮できると、“万能感”で満たされていたようだった。しかし、ここでようやく休息することができた。

 やがて夜になり、再び目を覚ますと、そこは真っ暗な闇の中であった。そして車の後部座席に横になっている自分を発見するのだった。雄志は、暗黒の世界の入り口に案内されていくような感じがした。

 周りの車をみるとライトがついており、一定の速度で雄志の乗っている車と同じ方向を向いて、同じ速度で走っている。なぜか、秘密を知り得た自分が大切に護送されているような気分になっていた。

「本・部・に大事なことを伝えなければ・・」

雄志はそのことばかり必死に思い、気になっていた。

頭の中は不自然に猛烈な速度で回転していた。

どうやら車で東京へ向かっているようである。

“本部に向かっているということは、ほんとうに私は狙われていたのだ・・・。この車の移動も秘密組織に狙われているのかもしれない。秘密を知った私が敵に隠れながら移動している。私のことは、すべて本部が知っている。東京の本部につくまではおとなしくすべきだな。”

と、後部座席で毛布をかぶり横になりながら何事か思案していた。

 雄志は自分が宇宙のすべてを司っている存在であり、その大・事・な・私自身を守るために周りも厳重な体制がしかれていると信じ込むに至った。
 

 これは統合失調症の大きな特徴であることを雄志は数年後に知ることになる。私の本・当・の・正・体・を、運転してくれている先輩も知るはずがない。

 その偉・大・な・存・在の正体がバレてはいけないと隠すために、雄志はあえてこう叫んだ。

「俺は第六天の魔王だ。魔王が地獄の底から復活したのだ!」

本部についたと思いきや、なかにはいると警察署であった。

「俺は地獄の世界を見てきた。砂漠の中に骨だらけ、骨をかじってみな生きているんだ。俺はその中を脱出してきた。あそこはえげつない世界なんだ!」

雄志は署の中で警察官に意味深くしゃべっていたが、その直後、府中病院へ搬送された。

 その府中病院で突然、雄志は先輩の肩を組み、

「よーし、やるぞー!」

と腹の底から声をだした。先輩は心配そうに雄志を見ていた。

「何の心配がいるものか、俺はこの通り元気だ」

そう思いながら、過剰に元気を出すと、医師が現れた。

 雄志は診察した医師に
「あんたは私を恐れている顔をしているな。私は魔王だからな」
と言い放つと、いきなり身体をしばられ注射を打たれた。

「何をするんだ!離せ!やめろー!!」

注射が打たれた。やられた・・・雄志はぐったりした。

「離せー!俺を解放しろー!」
気付けば個室で暴れていた。

「ここから出してくれ!あけてくれ!」
ドンドンドンドンと雄志はドアを何度も叩いた。

「何か盗聴器が仕掛けられているかもしれない」
とトイレを入念にチェックすると2リットルのペットボトルが2本でてきた。

「俺に隠して工作しても無駄なんだよ」
とペットボトルを便器のよこに取り出して置いた。それ以上の工作はないとわかると雄志はあきらめて布団にもぐり込んだ。

 何時間すぎただろうか・・・。男性の看護師が入って来るのがわかった。

「なんでペットボトルがなかにあるのがわかったんだ?」
元に戻しながら不思議そうに話しているのが聞こえてきた。優しそうな声だった。

「夕食おいとくよ」
とその人はひと声かけ、部屋を出て行った。雄志は何も言わずガツガツ食べた。
院内給食はあっさりとしていてカロリーが低い。物足りなかった。

 

「まあ、やせられるからいいだろう」と院内食の薄味の魚を食べていた。

 何か新しい匂いがする。きれいなベッド、きれいなトイレ、白い壁、雄志はどこかいつもの世界から切り離されたような特別な空間にいることを認識した。

なぜ自分はここにいるのか、私の正・体・が世間に認知され、あわてた誰かが隔離したのだろうか、などと妄想していた。

「あ、もうこんな時間だ。宇宙と交信しないといけない」
と突如、雄志はなぜかお経を唱え始めた。どうやらお経を読む習慣は病院でもぬけなかったようだ。

終わると喉が渇いてきたようだ。

「なんだこのすごい口の渇きは!みず、水、いや、ポカリスエットがいい。いますぐ私に必要なんだ!ポカリをくれ!」

 スタッフに何度も訴えた。この日は十数錠の大量の薬を寝る前に飲み、電気を消してふかふかの布団で寝たのであった。雄志には特別なスタッフに守られている安心感があり、言われるがまま薬を飲んだ。

 本・部・にこそつけなかったが、ここは私を守ってくれる特別な施設なのだ。そう、特・別・な・部屋なのだ。

「あれ・・・僕は何をやっているんだろう。今どこなんだろう」
しばらくして目を覚ますと窓の外は陽が昇ってだいぶたっているようだった。
秋も深まり部屋はかなり寒い。窓ガラスには水滴がついていた。

「僕はここにいていいんですか?」

「そうだよ、ここでいいんだよ」
看護師からいわれ、おとなしくしていたものの病院の個室は退屈で仕方なかった。

「やはりここを脱出しなければ、早く本部へいかなければ・・」
焦る気持ちのまま雄志はドアへ向かった。大きくて複雑な構造だった。どんなに力を入れても開かなかった。

窓へ向かった。窓も鉄柵があり、出られるわけはなかった。
出られなくて当然であった。

 

なぜならここは精神科の閉鎖病棟の個室であったからだ。

第一章 闘病編 ~急性の精神病~

<第一章 ~闘病編~>

=急性の精神病=

「これが組織の秘密基地か!やばい、逃げないとほんとに危険だ!」

 それは西暦2000年の秋の夕暮れであった。

 24歳となる雄志の通う関東中央大学には紅葉した木々が、構内に彩りをそえていた。
関東中央大学で迎える大学祭も今年で5回目。

「本当は、ちゃんと卒業して今頃、仕事についていないといけないのにな・・・。」
沈みゆく夕陽を眺めながら、そうつぶやくと、雄志は残っていたタコ焼きを一つ口に運んだ。

「今年で最後だな。せっかくだからよそのサークルの展示も見に行ってみよう。」
雄志は少しだけ冒険する思いで、他のサークルの展示と講演をのぞきにいこうと、ある部屋へと向かった。

 雄志はそのサークルの講演を聞いたあと、主催者に「飲み会があるから」と案内されるままに、大学のそばにあるビルの屋上の一室に招待され、そのままなぜか閉じ込められてしまっていた。

「何?こいつは日蓮を信じているのか?ちっ、よく監視しておけ!」
ビールを少し口にしたあと、この団体の中心人物らしき小澤(仮名)という学生が憎らしげに舌打ちしているのが聞こえた。
 

 この日は“俺”という新しいメンバーがきたことを歓迎してくれる飲み会であったらしい。
 

 部屋を見わたすと、天井には大東亜戦争を彷彿とさせるポスターが貼っていたり、また、入り口の扉には暗示をかけるようなギョロギョロした眼のポスターが雄志を洗脳するように見つめていたりして背筋がゾクゾクとしたのだった。

「なんだろう、このサークルはなんなんだ?」
雄志は身構えた。

そして、講演のときに手にしたパンフレットをよく見ると、
南無阿弥陀仏!」
とその冊子に書いてあるのに気づいた。

 一瞬、雄志は固まった。雄志は念仏思想とは対極の教えである日蓮仏法を信じていたのだ。

 

 さて、今閉じ込められている薄暗いこの屋上の部屋から、どうすれば、脱出できるのか。また、どのようにして自分への敵対心を軽減させ、わかりあえるのかを雄志は考えていた。

 しかし、「今日来た、日蓮を信ずるあいつをどうするか」と中心者の小澤と、この建物の一階を事務所にしている幹部らしき大人が、雄志について話しあっているのを聞くにつれ、雄志はこの先どこかへ連れ去られるのではないかと思うに至った。
ともあれ、その晩は勧められるままビールを飲んで全員が寝静まるのを待った。

 そして、雄志は幹部の目が覚めないように、毛布をかぶり横になりながら、自分の体を出口の方に小刻みに動かしていた。

“もし今この時を逃せば、いつ、解放してくれるかもわからない。しかもここは屋上で鉄のトビラで閉められているじゃないか!閉じ込めて俺をどうするというのだ。何としてでも今、ここを脱出しなければならない。もしも逃げるのがバレては殺されてしまう!”
雄志はそう直感で思い込んだ。

 雄志と幹部の大人は別々の毛布にくるまって寝ていた。茶色の毛布にくるまって寝たふりをしているが、雄志の意識は冴えている。

 幹部が起きないように、毛布をかぶったままそろーっと出口の方へ体を這い動かしていった。

「よし、行ける!」
と雄志は身を起こしドアのノブに手をかけようとした。
 

その時、
「どうした!」
と幹部が目を覚ました。

 心臓が飛び出るほどの恐怖心が雄志を襲ったが、落ち着けと自分に言い聞かせ、ふたたびゆっくりと寝たふりをした。

 幹部は、酔っているようだ。また布団をかぶりぐっすりと寝たのだった。
雄志はソーっと出口の扉をあけるのだった。

「よし!出れた!」

そのとき、ブオーンブオーン!とブザーが、けたたましく建物の内外に鳴り響いた!
「やばい!」

 身の毛もよだつ恐怖が雄志の全身をかけめぐり始めた。雄志は、無我夢中でビルの階段をかけ降り、さらに自宅に逃げるべく、全速力で大学構内を駆け出した。もう何がなんだかわからなかった。

「おい、あいつが逃げたぞ!」

後ろで小澤の声が聞こえた。黒い凶暴な犬が5~6匹、吼えながら雄志を執拗に追いかけてくるではないか!
 

 背中に包丁をつきつけられたような恐怖が背筋に幾筋も走っていく心境がしばらく続いた。
 

 大学構内の木々が風で揺れている。いつも見慣れている風景のはずだが、雄志には何か木がうったえかけているように映った。

 いや、木はざわめきたち、これから起こることをとても警戒しているかのようだ。
雄志は追いかけてくる犬の足をとめるため、林の中へ逃げ込み、ポケットのなかにある何かを反射的にぎゅっとつかみ投げつけた。

 すぐ後ろから追いかけてくる犬の遠吠えが、ものに気をとられ若干遠のいていくようであった。遠吠えはだんだん小さくなっていった。かろうじて難を逃れたようだ。雄志の息は荒く呼吸はぜいぜいとなっていて、心臓ははちきれそうだった。
 

「まだ追いかけて来るかもしれない。」

 そう思うと雄志は再び全速力で駆け出した。いまどこを走っているのだろう、もう何もわからない。頭が猛烈にフル回転したあと、なぜか“自殺した友人をその苦しみから助けたい!”と思いたち、近くの公園で

「死ぬなー!死ぬなー!死ぬなー」

と、絶叫していた。

小説 心の病に挑みます ~はじめに~

<はじめに>

 関東中央大学(仮称)を留年した大和雄志(やまとゆうし:仮名)は、将来への不安から暗澹たる気持ちに陥り、時に自暴自棄になりそうな自分を変えたいと、活路を見出すため懸命に努力を続けていたのでした。

 しかし、下宿での孤独な環境のなか、食事や生活習慣もいつしか乱れ、就職か進学かで、将来の進路を見出せなかったその時に、ある出来事がきっかけで、急性の病気を発症してしまうのでした。

 その病の名は統合失調症。一生を棒にしてしまう病気にかかりながらも、母の懸命な祈りもあり、再び大学生活を送れるようになります。
ところが、発病から約半年後、雄志は就職活動に挑戦するものの、薬の副作用から頭は朦朧とし、注意力は散漫、履歴書には不備も多く、内定を勝ち取るには至りませんでした。

 その中で、自分の病気についてもっと勉強したいとのかすかな期待と目標を抱くようになりました。

 病気になった経験を基にその仕事につく・・・。無謀で突飛な挑戦のように思えますが、雄志は本気だったのです。

 大学をかろうじて卒業したあと、両親の理解もあり、清水の舞台から飛び降りるような気持ちで、雄志は出身地の大阪に帰り、専門学校を受験します。

 試験合格後、精神保健福祉の道を歩むことを決意しますが、生来の生真面目さや、病気の症状、副作用などで、表情や思考などがガチガチに硬くなっており、

“力を抜く”“遊ぶ”ことに不慣れな雄志は、なんとかして肩の力を抜こうと“頑張って”しまうのでした。

 施設見学で同じ病の人に病気のことを相談したり、講師の先生の実践的な講義を聞いているうちに、「僕の探していたものは、この道だ!」と、納得し希望が見えてきます。

 また、運命を共にする一人の女性とも出会い、交際していくなか、女性の気持ちを少しずつ理解できるようにもなっていきます。

 そして、国家試験に合格し、無事、就職した雄志は、心の病を抱えながらも、地域で、同じ病を持つ人のために、働きはじめます。
やがて結婚をし、地域医療・福祉に取り組む雄志ですが、再び体調を崩し、退職してしまいます。

 繰り返す転職、理不尽なリストラ、失意の底でもがき苦しむ雄志が、その先に見えてきた道とは!?

 この小説に登場する人物・地名は、すべて仮名・仮称ではありますが、実在の人をモデルにした部分もありますし、

創作で架空の人物を登場させている場面もあります。

 なぜ、本小説を書こうと思ったのかと申しますと、雄志の歩んでいく道が、同じ病をもつ方の希望となり、また、関係者の方々の参考資料になれればという思いからです。
どうかその意味で、この作品を温かく見守って頂けたらと思います。

 

(この小説は2000年~2011年の私の体験を元に、2010-2013年頃に執筆しています。)

宿命を使命に変える

最近、この言葉の題名で、ある道化師の方がNHKが取り上げられているのをみた。

 

また、若年性認知症の特集で活動されている方のテレビを見た。

 

自分の本来の使命を思い出させてくれた。

投資信託や株などは安定すればとるに足らないものである。

 

人としてどう生きるか、何を後世に伝えたのか。

これが大事であると思う。

 

私は中学時代からあることないこと噂を捏造され吹聴され、極悪人扱いされ知らない人から死ねと何度も言われて心が折れて結果、統合失調症となった。

統合失調症を知りたい経験したことを活かしたいと精神保健福祉士を取得し、精神科ソーシャルワーカーとして働いた。しかしストレスに耐えられず再発し退職。うつ傾向の妻と乳児を抱え、路頭に迷って絶望のなか精神障害をオープンにして働くことを決意。プライドを捨てて辱めも受けつつオープン就労した。

でもやっぱり理解されず誤解され退職し、現在ほぼ主夫として資産運用に励んで生きている。

 

しかし、何か、同じ悩みや経験をして苦しんでいる人の力になれないか、何か活動できないかと再び思えるようになってきた。

新たな活動を模索していきたいと思います。