第一章 ~蘇生と出会い~ 3
雄志は積極的に友人をつくろうと思い切って雑談の輪の中に飛び込んだ。冗談がよく飛び交い、おもしろい話しが多かった。よく笑い、心に満たされるものがあった。雄志は、友人をつくりたい、そう強く願っていた。
それはあまりにも孤独な環境に身を置きすぎた反動からくるものであったのかもしれない。孤独地獄から抜け出そうと、もがきにもがいた結果、病にかかった。しかし、これは雄志のその後の人生にとって決定的な意味を持つ病気となるのである。
【病になりて道心は起こり候】
病気になることで、はじめて道を志す。雄志は、はじめこそわからなかったが、その渦中にいることをかろうじて実感することができた。
ともあれ、積極的に自分から声をかけ話の輪の中に飛び込んでいくことだと、授業の休憩時間には、喫煙場所で過ごすことを選んだ。
「雄志は、体調どうなん?」
同期の友人から温かく声をかけられ、
「大丈夫、いい感じやで。」
とやや強がって返事をしてしまうこともあった。
「ほんとうは薬を飲んで、身体がだるいんだ。」
と親友のSに語ることもあった。
「そうか、目がしんどそうやもんな~。ともかくよく寝ることやで」
Sは雄志と昼食にラーメンを食べながらそうアドバイスした。
「でもな、回復を切に求める俺にとっては、多少のしんどさは全然苦にはならへんねん。むしろ当然と思ってるんや。」
「雄志は前向きやな・・・。そこは俺も見習わないとな!」
Sは雄志の隣に座る学友だった。Sは
「俺も、学生時代はハイになることがあって、裸で走りたい気分になったことがあったで」
「そうなんや。」
と雄志は、自分と似たような感覚に陥ったSの話しを聞き、なぜか安心してしまうのだった。
「僕の場合は、たまたま薬を飲んでなかったりするだけやから、病気と健康はそもそも紙一重の差なのかもしれないね。」
Sはそう言うとタバコを吸い始めた。
「そうなんかな~。」
雄志もすすめられて、タバコを口に加えた。二人で少しの間、沈黙が続いた。
「あ、もう時間やな。」
雄志と親友Sは腕時計を見て、タバコの火を消すと、あわてて校舎の中へ入り、いつものように席につくのだった。
講義がはじまるとにぎやかな空間がまた静かになっていく。講義、雑談、見学、これの繰り返しが、雄志にとってどれほど精神の滋養となったか、はかりしれない。友人と話すなかで雄志は自分がいかに遊んでいないかということにも気付かされた。そう、頭でっかちで遊ぶ経験、社会経験が足りないのも雄志の一つの特徴だ。
講義の中で「社会経験が少ない」などといわれると、ズバリと指摘された感じがして恥ずかしくなった。雄志は発病から一年半、まだまだ後遺症が残っていた。緊張感がとれずガチガチに固くなった状態で人と接していたのである。
よく友人の剛から「力を抜いて」とか「リキむな」と言われる。
しかし、そう言われても逆に力がはいってしまうなど、未だに力の抜き加減がわからず、不必要に固くなりエネルギーを消耗することがある。雄志自身も「しょうがないなぁ」と半ばあきらめていたりするが、自分のことはなかなかわからないものだ。
専門学校からの帰り道に老舗の饅頭屋を見つけた。作りたての饅頭は店頭にならべられており、看板が目に入る場所までくると、できたての匂いがほのかにただよってくる。
普段は饅頭を買わない雄志もこの日は「ま、いいか」と一人でつぶやき、家族の分もあわせて四つほど、大福を購入した。店のおばさんは笑顔で「気ぃつけて帰りや」と手を振って見送ってくれた。