SBI証券(ネクシィーズ・トレード)

こころの就労・生活相談室~元当事者PSWのブログ~

精神保健福祉士(PSW)を取得、統合失調症を抱えながら転職を繰り返し当事者として障害者雇用で働いた経験のある著者のつれづれ日記です。

第一章 闘病編 ~急性の精神病~ 3

「この部屋のどこかに盗聴器がある、まだ敵は俺を監視してるのか!どこまで俺を監視すれば気が済むんだ!」

と雄志は、怒りに任せて天井の蛍光灯を根元からはずしたらしい。雄志は記憶がとんでいてそのまま眠り込んでいたようだ。看護師があわててきたらしい。
天井が壁ごとめくれ、後で損害賠償を求められることとなったようだ。

「ひまだなぁ」
雄志は食事内容を書き留めようとノートを取り出した。

「読書録も書こう、日記も書かなくては」
 そういうと雄志は、持ってきたカバンからノートを取り出し、日記をかきはじめた。
そんな毎日を数日過ごしたある日、個室から出ることを許され、雄志は白い病棟内を歩いた。動きのゆっくりな新しいタイプの人たちがたくさんいるなと率直に思った。僕を守るためどこか新しい星の宇宙人が僕を見守りにきたのかな・・・はて・・・と、頭の中が妄想で再びフル回転していた。

「俺もこのゆっくりな人たちの中の一人なのか・・・」
状況を受け入れざるを得なくなると不安になって仕方がなかった。大学はどうなっているのだろう。内定していた会社はどうなるんだろう・・・。

 病院の食堂の中央に置いてあるテレビを見ながら、夕食を食べていた。野球が放映されているようだ。将棋をしている人もいた。ボーッと歩いている人もいた。雄志もその一人だった。食後の薬を飲み、部屋へ帰ろうと迷路のような廊下を通っていくと、

「お風呂ですよ」
 介護スタッフに声をかけられ、次々と皆がお風呂に入っていく姿がみられた。

「体は自分で洗ってね」
忙しそうにそう言われながら、雄志もお風呂に誘導された。お風呂は雄志には熱すぎて、水をいくらか足してぬるめにした。

「段々この生活にも慣れてきたかも」
2週間ほどたち、ふと雄志は思い始めた。

 人生焦らなくてもいいんだ。自分一人でなにもかもやろうと思わないでいいんだ。
誰かに助けを求めるのも時には大切なことだ。そう感じられるようになった。
3週間後、雄志は6人部屋へと移り、他の5人に断って、また朝と夕方にお経を読み始めた。なぜか欠かさず続けていた。

 昼食を食べると、男性の中林准看護師が部屋に入ってきた。
「雄志君、ソフトボールやろうか?」
 中林准看護師に声をかけられ、雄志は初めて外の空気を吸えるようになったのだ。
 病棟は最近新しくできたのだろうか、きれいな白色の建物は森林の中でひときわ際立っていた。

「僕はこの中にいたのか・・・」雄志は、しばしこの“特別な建物”見つめていた。
はじめての外出で、街の景色が随分新しくなっているような気がした。ここは別の国か?まるで別世界へ連れていかれたかのような気分に陥った。

「僕はどこにいるんですか?」

「緑町(みどりまち)(仮称)だよ」

「緑町?」

雄志は首を傾げた。
「緑町ってどこですか?」

「東京だよ」

なぜ東京にいるのかさっぱり検討がつかない。あれからどうなったんだろう・・・

私は護送されて、本・部・にいくはずじゃなかったのか・・・。