第一章 ~蘇生と出会い~ 2
「俺、病気があって薬を飲んでいるんだ。」
ある日、雄志は、地域の親友である剛(つよし・仮名)に悩みを相談していた。
「病気はだれでも一つや二つぐらいあるで。要はそれで自分が負けるのか勝つのかが問題や。よく言うやろ、『他人と自分を比較して生きるより、昨日の自分と今日の自分を比べて前に進んでいることが大事』やって」
雄志は、発病してからというもの、常に“健常者”と“自分”を意識し、比較して生きてきた。
つまり、一般の“健常者”と比べて病気になっていることで、どれだけ違って見えてしまうのか、ということばかり気になっていたのである。まともであろうとし続けてはみた。病気を隠そうと、そのことばかりを考えてきた。しかし、それでよくなる気配はみえなかった。
自分の失敗をさらけだすのがどれほど勇気のいることか。
『馬鹿になれ、とことん馬鹿になれ、恥をかけ、とことん恥をかけ』とはアントニオ猪木の言葉である。
この言葉を故郷の親友、剛のアパートで見た雄志は全身に衝撃が走った!
「なぜそんなことができるのか!」
恥ずかしがらずに勇気をだして自分自身の思いをさらけだす、それは大変恥ずかしいことのようだが、そうすることで、精神的に楽になり、解決へとむかう近道であることに気づいた。
“馬鹿になれ、恥をかけ”とは、雄志にとっては秘密をオープンにせざるを得ない、激しい言葉のシャワーとなるのだった。
「雄志は関東の大学にいたせいかもしれんが、自分をよくみせようとしてる。見栄や気取りは捨てなあかん!」
と親友である剛は教えてくれた。いとも簡単に雄志は心の中を見抜かれ、軽いショック状態に陥った。
言葉荒く欠点を指摘されるのは辛かったが、温まるものがあり、剛のいうことを聞いていこうと思えるのであった。
「まあ、病気も一つぐらいあった方が、身体との付き合い方もわかるし健康でおれるで。」
剛は雄志の肩をポンと叩きながらそう言った。
それから雄志は、学校でも恥じることなく自らが薬を飲んでいることを話していくようになった。入院を体験し、薬を飲んでいる・・・それは実は強みであるとも思えてきた。しかし、専門学校の友人たちは、病気である事実よりも、恋愛話しやほんとに就職できるのかということに最大の関心があった。自分が思うほど、周りの友人は雄志の病気のことは気にしていないようだった。
「重くとらえ考え込むより前を向いていこうや」と、そんな声が聞こえるようだ。